2019年12月15日日曜日

多言語エディタソンを開いたらすんごく大変だった話

今年7月に、多言語でのウィキペディア翻訳エディタソン(日本語→多言語)を開催し、講師を務めました。やってみたらいろいろと大変なことが多く、得るものが多かったので経験を共有したいと思います。
注意:私はコンテンツ翻訳ツール(CX)の開発者でもありませんし、またそれを批難する意図はありません。開発にはとても感謝しています。意見はすべて個人の経験によるもので、個人的な意見です。


1. はじめに(背景)

15の言語、19人の翻訳者で、「一筆啓上 日本一短い手紙の館」の記事をさまざまな言語に翻訳しました。参加者の多くは永住者・定住者で、ウィキペディアの編集ははじめての方ばかりです。与えられた時間は多くのウィキペディアタウンと同様、一日のみ。コンテンツ翻訳ツールをプラットフォームとして選択しました。

2. やることが多い!

  • ウィキペディアの編集方法
  • ウィキペディア編集のルール、マナー等
  • それらに加えて、コンテンツ翻訳ツールの使い方
を約2時間で教える必要があります。このためウィキペディアタウンではよくある現地視察(街歩き)の時間を削りました。それによって「現地のことがわからない」ことも確かにあったのですが、良し悪しだと思います。じゅうぶんに説明するため、説明資料の準備がけっこう大変でした。

3. コンテンツ翻訳ツールはまだベータ段階

コンテンツ翻訳ツールでは翻訳は自動保存されるのですが、何時間も編集した後に「翻訳が消えた!」ということが2件発生しました。これはなかなか辛いですね……。原因はわかっていません。また、翻訳元となる記事でウィキ文法のエラーがあると、自動翻訳がそこでストップします。
さらには、Internet Explorerだと、コンテンツ翻訳ツールで元記事の内容が読み込まれませんでした。これはChromeをインストールすることで解決しました。

翻訳元の記事はウィキ文法的にエラーがないようにし、そこから後は(エディタソンが終わるまでは)編集しないように取り計らいましょう。
また、コンテンツ翻訳ツールでの一つの記事のある言語ペアは、一度に1ユーザーしか着手できません。例えば「羽田空港」の「日本語」→「英語」の翻訳は、ある一人しかできないということになります。同じ言語の話者が複数人参加する場合は、共訳してもらう、別の記事をやってもらうなどの配慮が必要になります。

コンテンツ翻訳ツールでは、名前が全く同じテンプレートは流用できるのですが、テンプレートには「実態が同じなのに名前だけが翻訳されたもの」や微妙に違うものが多く、日本語版にはないものもあり、こうなると手で直す必要があります。めんどくさい。

4. 他にもさまざまな制約が

英語版ウィキペディアでは、コンテンツ翻訳ツールを使うにはアカウント作成から30日以上経過し、最低500回の編集が必要です。また直接記事を作成する場合でも、10回以上の編集経験があり、かつアカウント作成から4日以上経っていないといけません。これはつまり「当日来たその場でアカウントを作って英語版ウィキペディアで記事を作成する」のはほぼ不可能ということです。英語版ウィキペディアは事実上、避けたほうが良さそうです。

また会場は高校のコンピューター室だったのですが、パソコンのキーボードが日本語キーボードだけでした。これに対して各国の言語はキーボード配列が異なりますので、「家で使っているキーボードと勝手が違うので分からない」という方が複数おられました。キーボードの言語を追加することも必要です。

今回はマレーシアからの方など、ムスリムも何人か参加していたのですが、用意されたお昼ご飯がハラールではなかった、というのもありました。

日本の施設の「公式中国語名」などないわけでして、記事名をどうするかも悩みどころでした。
そんなこんなですごく大変でしたが、しかし貴重な経験ではありました。辛さをだいぶ忘れてきたので、またうっかりやるかもしれません。